医療者は、他の職種に比べると人の「死」に直面することがたくさんあります。


人生を全うされた方 まだまだやり残したことがある方 
若くして亡くなる方 100歳まで生きた方
病気で亡くなる方 事故で亡くなる方 自分で死を選んだ方


 救急の現場で働いていると、病気だけではない様々な状況を目にします。それは、他科とは異なる
経験値です。まさに、助けたくても助けられず亡くなる直前の方もたくさん診ていきます。

どうしても助けたい!と思う方がいる一方で、救急に運ばれてきたが、穏やかに死を迎えさせてあげた方がいいのではと思う方がいるのは事実です。人を助ける・救命するというのが医師であり救急医の仕事だろと言われるかもしれませんが、日本では比較的たくさんの方の「死」を見てきたからこそ、「穏やかに」迎えさせてあげたいと思うこともあります。また、それを選択肢に入れて本人や家族と話をすることも医師にとって大切な仕事であり、すべきことだと思います。

 一方で、医療者と医療者ではない方との間に「死」に対する身近さ・考える機会の違いをとても感じます。身近な方が亡くなられた経験のある方は自分ごととして捉えている方が多いですが、ほとんどの方はそうでもありません。特に若くして身近な方が亡くなった経験をしている方は少ないです。ですので、自分が死ぬかもしれないと想像することをあまりしたことがないのかもしれないと考えてしまいます。

「今まで、死を考えたことがなかった」「母は90歳にもなるけど寝たきりになったときのことなど考えたことがなかった」「周りの方で90歳でも元気な人がいるのに、なんで私の父(80代)は、こんなに元気がないのでしょうか」

 こういったことをよく聞きます。日本人の平均寿命 男性:81歳 女性:87歳 (2022年)

あくまで、平均です。そして、健康寿命(自立して一人で生活が出来る)ではなく寝たきりとなった方も含めての平均寿命です。
世界を見て下さい。日本は世界一の長寿国。その一方で、ソマリアや中央アフリカなど平均寿命が50歳台の国もあります。半分ぐらいの国が平均寿命は75歳以下です。ほとんどのその国では寝たきりで生活が出来るような施設などはないため、健康寿命と平均寿命に解離はあまりないのかもしれません。
 日本の健康寿命は?
  男性:72歳 女性:75歳 (2019年)
こう考えると、世界の真ん中の平均寿命と同じではないでしょうか。健康寿命と平均寿命との差 約9-12年
これをどう考えるか。自立して生きていけなければ、もう意味がない。と考えるのか、それを支える家族や友人に愛されて、支え合って生きていく大切な時間。と考えるのか。
 さらに、現実的な話で生きていくためにはどうしてもお金が必要です。ないのは、国のせいだという方もおられますが、これも、人任せにしてはいけない部分も多くはあると思います。

自分の身は自分で守る。 

当たり前と言えば当たり前ですが、こういったことを学ぶことなく、一度仕事に就いたら定年までずっと。高度経済成長のときは、どんなことをしていても日本の経済は上がっていたため給与が下がることはなかったかもしれません。仕事が出来ていたのではなくて世の中がそういう時代だったのです。困ったときだけ国のせいにするのもいかがなものかと思います。
 国民皆保険制度が出来たのは1961年 当時の平均寿命は男性65歳 女性70歳 感染症で亡くなる方が多く投資する医療費としても感染症の治療がほとんどだったため、あまり高額な医療費ではなかったです。だからこそ成り立っていたとも考えられます。その後、健康で生きられるようになり、長生きするようになり、人口も増えた。国としても力がついた。一方で今まで癌、血管系疾患になる前に感染症で亡くなっていた方が長生きするようになり相対的に癌・血管系疾患の方が増え、その為の治療費は、感染症に比べて比較にならないほど高額となってしまいました。(薬剤もデバイスも高いため。)この保険制度がずっと残ったまま、国が補償をするをすると当然負担は増大しています。もう、この保険制度は国の財政的に考えると破綻していると言ってもいいかもしれません。

 長生きが幸せなのでしょうか。

 長く生きるだけが幸せなのでしょうか。

ガボンのシュバイツゥアー病院での研修で見た現地の方々は笑顔でした。当時平均寿命55歳の国でした。
命の長さが幸せの定義ではないとそのときに思いました。当時30歳。
どう生きたか。毎日をどのように生きているか。明日もし死を迎えたとしても自分の人生に後悔をしないように今日を生きているか。
そんな風に考えて生きてみませんか。
 negativeな考え方ではなく「死」を意識するからこそ、毎日のちょっとしたことに幸せをより強く感じることが出来ると思います。生きていることに感謝するかもしれません。
「死」は忌み嫌うものでもありません。必ずやってくるものです。いつまでも変わらないということはなく人は変化していくものです。自然の摂理にむやみに抗うことも必要ない。

今後医師が行う仕事は、思いがけない死や生活の質を急に下げてしまうような怪我や病気への対応はもちろんのことですが、生活の質を上げるサポートや、やがて来る死をどのように迎えるかを一緒に考えることがより一層大切になってくると思います。

 

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